クリックで大きく クリックで大きく
お 笑 い 柏木 大安(私立中高教諭)
 肥後克広、寺門ジモン、上島竜兵による「ダチョウ倶楽部」というお笑いトリオがいる。
 3人揃って[聞いてないよォ」「訴えてやる!」「ヤー!!」とかやるのが彼らの芸で、私にはそれ
しか記憶がない。当然、それだけではあっという間に芸が終わってしまうので、彼らには別の持ち芸がある。
 10年ほど前、彼らが活躍していた番組の一つに日曜日の昼頃、ビートたけしの司会で日本テレビ系列のバラエティで『スーパーJOCKEY(SUPER JOCKEY)』(スーパージョッキー)があった。
 目玉企画は「熱湯コマーシャルレといって、自分たちのコンサートなどをアピールしたい一般の挑戦者たちが、熱湯(熱いけれどもやけどをしない程度)に浸かって、その中に入っていた時間だけ宣伝をする事ができるというもの。
 挑戦者にとっては、テレビで宣伝するきわめて貴重なチャンスであるので、できるだけ長い時間を確保したいのだが、我慢しきれず飛び出してしまう、というのが企画の狙いで、途中からは、たけし軍団の井出らっきよや、ダチョウ倶楽部の上島竜兵が、挑戦者でもないのにも関わらずチャレンジして、激しいリアクションとともに飛び出してはスタジオの観客が大騒ぎする。

"リアクション芸人(リアクションげいにん)は、漫才やコントをせずテレビ番組(特にバラエティ番組)を中心に罰ゲームを仕掛けられるなどの体を張った仕事を得意としているタレント。出川哲朗、上島竜兵(ダチョウ倶楽部)、山崎邦正、松尾伴内がリアクション芸人であると自称している。
(中略)
 おいしい「リアクション」(re-action:反応・相互作用の意)をとることが芸の主軸であるため、その契機となるアクションなしでは活躍の幅が極端に狭くなる。結果として他者からの干渉を受けやすい、すなわちいじられキャ
ラのものが多く、体を張る以外では司会者からいじめられたり、ドッキリを仕卦けられたり、それに逆ギレしたりする。オーバーな言動を自然に見せかけるために高い演技力が要求される。
(フリー百科事典 wikipedia「リアクション芸人」 http://ja.wikipedia.org/wiki/)

1980年代、私が小学生〜高校生のころには、土曜の夜8時〜TBS系列で『8時だヨ!全員集合』が人気を博していた。その後、その人気を奪う形でフジテレビ系『オレたちひょうきん族』が登場した。
 『8時だヨ!全員集合』は、私が生まれる前から放送されていた番組であり、テレビをドリフターズの体を張ったコントを"当たり前"として見ていた。今考えてみると、人形の首をギロチンで切るなど、現在では考えられないようなことを平気でやっていた。
 さらに思い出せば、この当時、こうした番組の人気と平行して、テレビ番組の暴力表現に対する倫理的な批判が相当あったように思う。E欧米では、テレビなどの暴力的な表現は規制の対象になっているjということもかなり言われた。
当時、欧米で実際にそのような規制があったのか?
また、テレビなどで暴力的な場面が多く存在すれば、子どもたちに影響するという統計調査でもあるのか?ということの事実関係について私は知らない。しかし、後で述べるように、そうしたコンセンサスがないまま、そうした議論は現在でも続いているのも事実である。
 逆に言えば、そのような声があろうとも、制作の側で重要なのは視聴率であった。一方、私はそれを楽しみっつも、少しは「これはやりすぎではないか」とか思いつつ見ていたような気がする。今思えば、私たちの世代は、そうしたテレビの影響を最も問題視された世代だったのかもしれない。
 お笑いからは離れるが、主婦の問で人気を博した[サスペンスjも同列に語ることができるかも

しれない。
私の母は、唯一、日本テレビ系列『火曜サスペンス劇場』(9時〜H時)だけはチャンネルを譲らなかった。(例えば、「監察医室生亜季子33「笑った似顔絵」うつ病の男に後妻に入った女 1本の毛髪が 暴く白骨死体の8年間 宮川一郎原作 浜木綿子 左とん平 他」)
こうしたサスペンスが(おそらく、主に主婦圈に)人気を博していることは、『火サス』、だけでなく、『土曜ワイド劇場』『ザ・サスペンス』など他局が2時間枠のサスペンスを毎週放送していたことから計り知ることができた。
 一時期は、1週間に3日以上も殺人事件があり、罪から逃れようとする周到なトリック、刑事や探偵はそうしたトリックに苦しみっつもわずかなヒントからギリギリで犯人を追い詰める、そこで暴かれた真実には、犯罪者にとって止むに止まれぬ事情が…というパターンが繰り返された。ということは、殺人は綿密に計画的に計画すれば罪から逃れられる可能性があるということか?(ドラマの中には、実際に犯罪から逃れたケースもある。)犯罪には止むを得ないものがあるということか?局はこれによって巧妙な犯罪を奨励でもしているのか?と母のサスペンスに付き合いながら、私はいつも考えさせられていた。
 ちなみに、現在では、こうしたサスペンスは、ゴールデンタイムにはあまり放送されなくなったようだ。(昼の時間帯に再放送で今でも見ることができるが。)

バブル崩壊の後には、ナインティナイン(岡村隆史(ボケ)と矢部浩之(ツッコミ))というコンビが登場した。
 主に、ビートたけし氏が率いていた「リアクション芸人」と呼ばれる人たちは、当然、自ら進んでそうした芸を選んでいるのだろうが、見る側からすると、それは、それしか登場の場がないから仕方なくやっているようにも見え、ビートたけしを頂点とする縦の組織構造を感じさせるようなところがあった。
 ナインティナインの冠番組であるフジテレビ系土曜8 :00〜『めちゃ_イケてるッ!』(めちゃめちゃいけてるっ!)は、番組としては面白いのだが、ある芸能人を未知の類人猿ビッグフットに見立てたり、メンバーの中で、サイコロで当たった人を皆でハリセンで殴ったり、と、時
代は変われど、暴力性はさほど変わっていない。

 BPO(引用者註:放送倫理・番組向上機構)でも審議の対象となることが多く、いわゆる「罰ゲーム」などの暴力表現について指摘を受けることが多い。これに対して岡村は、2007年10月25目の『ナインティナインのオールナイトニッポン』において、「罰ゲームがいじめを助長するということは一切ない。学校でいじめを受けて笑顔のない子でも、バラエティ番組の前だけでは笑ってくれるというのが理想。バラエティ番組を規制するよりも、インターネット上の暴力表現や性描写を規制すべきでは」と、BPOの見解に対して痛烈な批判を行った。
(フリー百秤事典 wikipedia 「めちゃ_イケてるッ!」 http://ja.wikipedia.org/wiki/)

 岡本氏が「一切ない」と断言するのであれば、ただ言い放つだけでなく、そう考える根拠もきちんと言ってもらいたいものだ。

パドル・ロワイアル(映画)
 2004年6月1目、この映画(15禁)のDVDを借りていた小学六年生の少女が、小学校内で同級生を殺すという佐世保小6女児同級生殺害事件があり、この年最大級の衝撃的事件となったが、この子は小学3年生からこの小説のフアンであり、事件の前にはこの作品の同人小説の創作に夢中であった。
(フリー百科事典 wikipedia  http://wikipedia.org/wiki/)

 「子どもは大人の真似をする」とも言う。大人などの行為の真似をすることが、子どもの行動規範を作る上で大きな影響を与えることは常識に属する。いじめる意識がなくとも、岡村氏の真似をすることはあるし、子どもというものは、そうした遊びが、得てしてエスカレートしていくものであることは、子どもを多く観察していれば自然にわかるものである。岡村氏を見ている子どもは何百万人といるのであり、その子どもたちが受ける可能性のある影響をすべて了解しているわけでもあるまい。
 岡村氏にその気がなくとも、テレビでの行為が、子どもたちに「着想」を与える可能性は認識しても良いのではないだろうか。

 かくいう私も、実のところ、ナインティナインとは同世代であり、彼らの無名時代を知っているので共感を持っていたりもする。
 ナインティナインの岡村氏と矢部氏は、別のお笑いグループ「よゐこ」(有野育成・演目優)、「極楽とんぼ」(加藤浩次、山本圭一)などと共に、以前、フジテレビで深夜に放送された『とぶくすり』に出演していた。彼らが、現在『めちゃ_イケてるッ!』で共演しているメンバーになっている。私は、たまにしか深夜番組を見なかったのだが、その番組のことは記憶に残っているし、深夜番組であるにもかかわらず、相当な人気を博していたことは、知人からも間いたことがあった。
 『とぶくすり』のメンバーによるコントは、セットなるものはなく、背景が模造紙の絵一枚だけ、という粗末なものであったが、ユーモアと意気込みが伝わってきたし、お笑いでありながら、白分たちで何かを作り出そうという創作意欲を感じさせた。合間にメンバーによるトークが入るのだが、そのトークは、お笑い芸人のそれと言うよりは、ごく普通の若者がするような普通のトークであり、まるで大学生のサークル仲間による飲み会のようであった。
 そうした新鮮なお笑いのスタイルが、主に同世代に共感を呼んだのだと思われる。


 お笑いタレントというカテゴリーが確立して以降、NSCなどお笑い芸人養成学校が開校したり、インディーズ出身のお笑い芸人が出現し、隆盛するにつれ師弟制度が衰退し、先輩芸人に対する「師匠」「兄さん・姉さん」という呼称は一部のごく親しい人間しか用いない傾向にあり「○○さん」と呼ばれることが多くなった。
(フリー百科事典wikipedia 「お笑いタレント」 http://ja.wikipedia.org/wiki/)



 今では、若手芸人の活躍の場は増え、NHK『爆笑オンエアバトル』『M-1グランプリ』『エンタの神様』『爆笑レッドカーペット』『ウンナン極限ネタバトル!ザ・イロモネア笑わせたら100万円』など、相当な数に及ぶ。
(若手芸人を使ったほうが、制作費が安く済むという事情もあるような気がするが。)
 ナインティナインもお笑い芸人養成学校の出身であり、今考えると、『とぶくすり』は、こうした
お笑いブームの先駆けだったと言えるかもしれない。
 それが、『めちゃ_イケてるッ!』のようなゴールデンの時間帯でやるようになって、視聴率を気にするようになると、暴力的になってしまうものなのかなー、と残念に思う。
 ナインティナインを弁護しておくと、何も特別『めちゃ_イケてるッ!』だけが問題だったというわけではない。同時期にやっていたフジテレビ系列『とんねるずのみなさんのおかげです』などは、石橋貞明氏の横暴が目に付いたし、出演者がセクハラで訴訟を起こすなど、いろいろ問題が多い番組であった。それに比べれば、『めちゃ_イケてるッ!』ははるかに"民主的"に番組が構成されていた。
 従来のお笑い番組が終了していく中で、『めちゃ_イケてるッ!』は10年以上も続いたこと(そして番組の制作方針を変えなかったこと)、番組制作に対する目が厳しくなったのか、時代の風潮に合わなくなったのかはわからないが、「リアクション芸人」が姿を消し、生き残った番組の過激な演出が目立つようになってしまったことが大きいのではないか、と勝手に推定している。


 リアクション芸人の代表格である「ダチョウ倶楽部」を、最近テレビ番組で見た。それは、お笑い番組ではなく、「温泉めぐり」の番組であった。何と、メンバーは温泉と旅館のおいしい料理を楽しんでいるではないか。
 リアクション芸人がこんな番組に出ていて良いのか?!と思って見ていたら、ちゃんと彼らの活躍の場が用意されていた。上島竜兵氏がクレーンに吊るされて、「熱湯」に落とされるというものだ。
 上島氏は、「熱湯」に放り込まれたり引き上げられたりしては、「熱い!やめろ−!」とか言ってリアクションをしていた。しかし、よく見ると、右下にテロップが。「お湯の温度は43°Cです。」(熱湯じゃないじゃん!)

プロフィール
1969年、大阪府生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科修了。現在、私立学校教諭。「第11回教職課程」懸賞論文優秀賞受(1992年)。「第5回読売論壇新人賞」受(1999年)。
ホームページ『ゆとり教育、学力低下を解体する「論考空間」』管理人。
(http://home.m05.itscom.net/kashi/index.htm1)(「柏木大安」はそのサイトのハンドルネーム。)

 Topへ
SSK on the Web Copyright (c) 2001-2005 by Saitama Shijuku Kyodo-kumiai.
All rights reserved.
このWebサイトに関する全ての著作権および関連する権利は埼玉県私塾協同組合に属します。
このサイト内の文章・画像などを組合の許可なく転載・複製することを禁じます。